## 序論
システム・アーキタイプとは、多くのシステムに共通して現れる因果パターンを経験的にまとめた枠組みである。初めて体系的に提示されたのはピーター・M・センゲ『学習する組織』[^3]だが、その思想的源流はシステム・ダイナミクスに遡る。システムの因果関係を丁寧に辿ると、異なる領域のシステムにも同一のアーキタイプが潜んでいることがわかる。本稿では、主要なシステム・アーキタイプとその整理方法を概観する。
## 本論
システム・アーキタイプの分類はいくつか存在する。たとえば「未達型/コントロール不能型/相対的達成型/相対的コントロール可能型」[^1]や、12種類に細分化したものなどである。本稿ではセンゲが示した代表的な10種類を採用し、Braun[^2]の “Connections Between the Archetypes” に従って **Growth 型**(自己強化ループ)と **Fixing‑Problems 型**(均衡ループ)の二系統に大別して論じる。
### Growth型の振る舞い (自己強化型ループに起因する振る舞い)
1. [[Success to the Successful (強者はますます強く)]]
自己強化ループのもたらす分かりやすい影響の最たる例であり、多くの社会現象で垣間見ることができる。初期条件の差がこのシステム原型によって拡大・増幅され、他者の成長を阻害してしまう。
2. [[Limits to Growth (成長の限界)]]
自己強化ループは単体では際限のない拡大が可能になっている。しかしながら、現実には際限なく拡大するシステムはあまり見られない。それは、システムの中に抑制をかけるための要素が含まれているからである。
3. [[Tragedy of the Commons (共有地の悲劇)]]
これは[[Limits to Growth (成長の限界)]]パターンの変種であるが、システムの中に抑制要素が無くても、複数のシステムの相互作用として共有資源を枯渇させるパターンがある。
4. [[Attractiveness Principle (魅力の原理)]]
これも[[Limits to Growth (成長の限界)]]パターンの変種である。システムの中に抑制要素が複数含まれており、これらを捌ききれないことで抑制がかかる。抑制要素があること自体よりも、それらを解消するための優先順位をつけられないことがより本質であるからシステム原型として独立している。
### Fixing-Problems型の振る舞い (均衡型ループに起因する振る舞い)
1. [[Fixes that Fail (応急処置の失敗)]]
問題を解消するために何かテコ入れをするが、その応急処置がうまくいかない。
2. [[Shifting the Burden (問題の転嫁)]]
目に見える症状の解消に苦心して、そもそもの問題を解消しないパターンである。本質的な問題は解消せず、均衡が生まれてしまう。
3. [[Eroding Goals (問題のなし崩し)]]
過去に立てた予測と現在の結果との間のギャップが拡大し、本来解決すべきだったかもしれない目標が低いレベルにとどまってしまうパターンである。目標の下方修正を対症療法的なアクションと捉えると、[[Shifting the Burden (問題の転嫁)]]の変種という捉え方もできる。ただし、この原型が重要なのは本質的には過去と未来の非対称性から生じているという点である。どんなに解像度を上げても未来を完全には予測できないので、目標の下方修正が結果的には正しいパターンもあり得るのだ。
4. [[Escalation (エスカレート)]]
これは二つのシステムが競合する際に、その相対的な結果が均衡するように働くものである。いわゆる競争原理であり、健全な競争であるうちは良いが、過当競争にも辿り着きうる原型である。
### Growth型とFixing Problems型の境界にある振る舞い
1. [[Growth and Underinvestment (成長と投資不足)]]
[[Limits to Growth (成長の限界)]]の変種であるが、過去の投資不足が現在の問題を生み出している点で異なる。さらに、[[Eroding Goals (問題のなし崩し)]]パターンと組み合わさると、投資不足と目標効果の問題がすり替えられてしまい、この問題を加速するパターンも想定できる。
2. [[Accidental Adversaries (偶発的な敵対関係)]]
良い協調関係からスタートしているのにも関わらず、意図せず相手の信頼を損ねた上に[[Fixes that Fail (応急処置の失敗)]]を続けると、パートナーシップが敵対関係へと変容してしまう。
## 発展的結論
これらのアーキタイプを理解すると、多様な現象の背後に共通する構造を見出せる。たとえば [[パレートの法則とは何か|パレートの法則]]は[[Success to the Successful (強者はますます強く)|Success to the Successful]]の具体例と解釈できる。今後は個別のケーススタディを通じ、どのアーキタイプが作用しているかを同定し、望ましい介入ポイントを探究する必要がある。
[^1]: [[システミックデザインの実践 - ピーター・ジョーンズ クリステル・ファン・アール#3. システムを理解する]]
[^2]: Braun, William. (2002). The System Archetypes The System Archetypes. System. 2002.
[^3]: https://thesystemsthinker.com/wp-content/uploads/2016/03/Systems-Archetypes-I-TRSA01_pk.pdf