## 序論
[[システムとは何か|システムの定義]]は多様だが、それらの定義の多くは、システム自体の優劣を判断するための明確な基準を含んでいない。[[システムとは複数の要素とそれらの相互作用で構成されるものである|要素対システム]]の対置による定義の一つには「目的を達成するための複合体」とされており、たとえば「ある目的に対してどれだけ効率的に、安定的に達成できるか」といった観点は、比較的導きやすい判断基準となるだろう。しかし、[[Tragedy of the Commons (共有地の悲劇)]]のように単独で目的を達成できても、複数のシステムが協調すると途端に目的から遠ざかってしまうパターンも考えられる。このように、どのようなシステムが「優れている」と言えるのかは、一筋縄ではいかない問いである。そもそも「優れたシステム」とは何を指すのだろうか?
## 本論
### VUCAに対する「優れたシステム」
[[現代システム科学概論 - 木村英紀#1.6 システム科学への期待 (p. 16)]]では、システムとは[[VUCAとは何か|VUCA]]に対応する、または強みに変換するための方法でもあると述べられている。これを踏まえて以下のように「卓越したシステム」の定義がなされている。ただし、この定義は人工的なシステムに対するものであることは留意すべきである。
> 1. 想定された機能を円滑に効率よく達成している
> 2. ユーザーを含めた最大多数の関係者が満足している
> 3. 構造が簡単で明確に説明できる
> 4. 他のシステムと共存共栄し、必要に応じて結合も可能である
> 5. 故障が少なく信頼性が大きい
> 6. セキュリティが強固である
> 7. 保守が簡単である
> 8. 機能や規模の拡張可能性が高い
> 9. 構築や運用のコストが低い
2や4において、包括されるシステムや他のシステムとの関係を強調しており、システム単体での評価軸では無いことは興味深い。
## 発展的結論
VUCAに対する「優れたシステム」の定義は、ソフトウェアエンジニアリングと距離が近くとても理解がしやすい。一方で、[[物理システム]]や[[概念システム]]のようにより抽象度の高いシステムに対して「優れたシステム」をどう定義するか、或いはそもそも定義できるのか、定義すべきなのか、という問いは我々の世界観にさえ関わる深い哲学的問いを導くかもしれない。