## 序論 分析麻痺(_analysis paralysis_)とは、考え過ぎ(_over‑thinking_)によって行動が停止する状態を指す。身近によく見られる現象であり、まったく経験したことがない人の方が少数派だろう。本稿では、分析麻痺とは具体的にどのような状態なのかを整理する。 ## 本論 Wikipediaには以下のような記述がある[^1] > Analysis paralysis is when the fear of either making an error or forgoing a superior solution outweighs the realistic expectation or potential value of success in a decision made in a timely manner. すなわち、適切なタイミングで意思決定することによる現実的な期待値や潜在的な成功価値よりも、失敗やより良い解決策を見逃すことへの恐怖が勝ってしまう状態である。システム思考の枠組みでは、[[Shifting the Burden (問題の転嫁)]]の例の一つとも捉えることができる。ここで「情報が不足したまま意思決定する」という根本療法を避け、「さらなる分析・情報収集」という対症療法に走る点が共通している。 しかし分析麻痺には、次の二点で厄介さがある。 1. **「適切なタイミング」の判断に唯一解がない。** 「最良の意思決定とは何か」という問いだけで決定理論という学術分野が成立していることからも、この困難さは明らかである。 2. **分析麻痺が長期化すると連鎖的に問題が増える。** - 外部環境の変化で前提が崩れ、分析結果が無意味化する - 選択肢を増やし過ぎて [[選択のパラドックス]] に陥る - 「より良い方法・結果」を求め続けた結果、当初の目標が後退する([[Eroding Goals (目標のなし崩し)]]/完璧主義の罠) ## 発展的結論 「分析麻痺」という語は、その現象を端的に示すキャッチーな表現である。回避するには、**適切な意思決定のタイミングを見極める能力**と、**認知バイアスを制御するスキル**という高度な技術が不可欠だ。一方で、いったん分析麻痺に陥ると前述のように問題が雪だるま式に膨らむ。したがって、実務レベルで分析麻痺を防ぐための具体的な方法論(ヒューリスティクス設計、意思決定フレームワーク、タイムボックス化など)を確立することが、個人にも組織にも重要となる。 [^1]: https://en.wikipedia.org/wiki/Analysis_paralysis